国内外で異なる中古車部品の価値がビジネスチャンスに
日本の常識は世界の非常識。石川県金沢市・会宝産業のビジネスは「地球規模での発想」が基点だ。
中古車の解体業から中古車部品販売事業を生み出した近藤典彦社長は、販売に手間を要する中古自動車部品が、海外では飛ぶように売れることを知る。
というのも、中古自動車の査定額が走行7年で0円になるのは日本だけの事情。同じ車も海外に行けば「現役」なのだ。さらに日本車の中古部品は日本車からしか取れない事情もあり、海外の業者は「宝」を求めて日本に買い付けにやって来る。
「一つあたりの単価は安いが、これなら確実に売れる」と、近藤社長は輸出事業に着目する。
インターネット時代を迎え自らが商社機能を
当初は商社に仲介を頼んでいたが、マージンが大きく、また値決めも満足がいくものではなかった。しかし幸運なことに、インターネット時代の到来とともに、オープンに情報をやり取りできる環境が整備されてきた。言葉の問題さえクリアできれば、自社で商社機能を果たせそうだ。
解体業の同業者は輸出を躊躇している。ならば、輸出に特化すれば差別化にもつながる。
こうして新戦略に踏みきり、現在は58カ国との取引実績を持つまでになった。さらに、ロシア、モンゴルなど10拠点のエージェントと契約し部品ストック用拠点も置いている。近隣諸国へはこの拠点から部品が配送されていくのだ。英語、ロシア語、中国語が堪能な社員を雇用し、語学の壁も取りはらった。
一方、国内においては約30社の解体事業者とNPO法人RUM(リ・ユース・モータリゼーション)アライアンスを形成。自動車リサイクル事業の標準化を目指しつつ、ネットワークによってスケールメリットを出し、互いのビジネスチャンスを増やそうというものだ。近藤社長は「これからは競争よりも協調で利益を出す時代」と見通しており、連携によるコスト削減も競争力強化のカギを握ると考えている。
そして、世界規模での物流を支えるには「情報」が欠かせない。物理的なモノの動きをデータとして把握し、調達も販売もさらに円滑に進めたい。例えば、イギリスで倉庫の中に必要な部品の在庫がなかった場合、もし近くのギリシャに在庫があるとわかれば、日本からコンテナで送られてくる部品を待たずに拠点間の移送で調達ができる。顧客への商品提供はスピーディになる。
そこで、会宝産業が、海外拠点の在庫、販売、仕入れなどのデータを集めて海外エージェント(販売側)と国内アライアンス企業(調
達側)に公開すること、情報を通じて商社の機能を強化することが同社の次のステップとなった。
ITコーディネータのアドバイスを受け電子商取引システム構築へ
近藤社長が温めていた構想はITコーディネータ横屋俊一氏の協力で具体的なシステムとして実現する。今回は企業間のデータ共有であることから、Webをベースにしたシステム(名称KRAシステム)を開発。会宝産業のサーバーにデータを集約し、在庫や販売を一元管理する。海外エージェントやアライアンス企業は、インターネットを経由してこの情報にアクセスする仕組みだ。
会宝産業側では、データの分析によって、例えば国内2社の解体中古車を合わせてロシア向け、ギリシャ向けなど輸出コンテナのアレンジができるようになるという。データがまた新たなビジネスチャンスをもたらせば、商社としての存在感はゆるぎないものになるだろう。
次期システムでは、部品の電子商取引ができる仕組みを考案中だ。これが実現すれば、まさに地球規模のリサイクルネットワークが動きだす。誰も手を付けていない領域に果敢に挑む近藤社長は、自らの位置づけを次のように言う。
「社名の会宝は、皆が宝に会える会社であること、そして開放されていることを象徴しています。自動車メーカーが動脈であるならわれわれは静脈産業。このポジションで新しい仕事を生み出していきたい」
解体業から新たな資源を作りだす会社へ――一つのビジネスが磨かれる背景には、企画発想力と行動力がある。
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