業界の一歩先行くIT活用・印刷業 目標は印刷業界の地域ナンバーワン 工程の数値化でさらなる業務改善を
経営者研修会に臨む70歳の経営者 今から約2年前。福岡県、北九州商工会議所主催のITSSP事業・経営者研修会(現在はIT経営応援隊事業)の会場に、熱心な質問を投げかける70歳になる経営者がいた。福岡県北九州市に本社を置く総合印刷会社・文化印刷の金重健社長である。 数日間にわたる研修会を終えた金重社長は「勉強は実行に移してこそ意味がある」と、講師を務めたITコーディネータ(ITC)の荒添美穂氏にコンサルティングを依頼。早速ITを活用した社内改革への歩みをスタートさせた。 IT活用への探究心と素早い決断。社長の年齢や、昨今の印刷業界の厳しさを考えれば、「意外」な印象を受ける...。 厳しい印刷業界でいかに商機をつかむか 文化印刷は商業印刷、とくに新聞折込チラシやパンフレットなど販促用品の印刷を主軸に据える。 「世の中が不景気になっても販促品への投資は減らない。むしろ伸びていきます。ただし差別化には設備投資が必要です」と金重社長は説明する。 同社は写真の色補正を始めとした印刷技術の確かさに加え、オフセット輪転機など高性能印刷機を積極的に導入して生産力と価格競争力を高めた。現在は福岡県および近隣を商圏にする広告代理店を主要取引先とし、売上げを年々伸ばしている。 多角化や不動産投資に手を広げず、印刷ビジネスにおける企業価値を一貫して追求した結果、業界の逆風に負けない文化印刷が創り上げられた。 情報収集を怠らない金重社長は、会社のさらなる成長を目指しITの活用にも関心を抱く。 「政府は盛んにIT化に取り組んでいる。印刷業でリーダー的な存在になるには一歩先を見ないといけない。これからはITの時代だから無関心ではいられないと思った」 印刷業は価格競争が厳しく、急ぎの依頼や変更要請が日常茶飯時という典型的な受注型産業だ。 ITC荒添氏は当時の同社の課題を次のように分析する。「突発的な依頼への対応に追われがちなので、どうしても売上至上主義になりやすい。効率化を図りつつ、利益率などを正しく把握する仕組みが必要だった」 ITCとともに意識改革、そして作業工程の数値化へ そこで、文化印刷のIT化では、ワークフローおよび基幹業務管理システム、そしてWebベースの情報共有システムの構築を目指すこととした。作業工程をデータ化して現状を正しく把握し、問題点を数値的に解明しようというものだ。 見積内容や実績などの取引データ、また作業工程や日報といった業務状況がデータベース化され、それぞれの状態を正しく把握できるようにする。 荒添氏はシステムを具体化する前に社内に経営改善会議プロジェクトを立ち上げ、まず社員一人ひとりが業務効率を上げるにはどうしたらよいかを考える場を設けて「ムダ追放コンテスト」などを実施し、意識改革の土壌を育てることに重点を置いた。 同社の金重博巨常務が「印刷業ではマッキントッシュの導入でコンピューターは身近ではあるものの、それは生産機としての扱い。その見方を進化させたい」と語るように、業務を改革するうえでは、社員が目的を自覚するステップが必要なのである。 システム導入の結果、生産プロセスにおいては連絡ミスや重複作業が激減、残業時間も50%ほど削減された。原価管理面では、赤字受注を防ぐ取り組みがなされるなど、意識改革と合わせた効果が見られている。 同社の取り組みを見ていると、「強い会社ほどチャレンジを続けますます強くなる」という思いを抱く。伸びる会社には相応の理由と努力があるのだ。 「コンピューターの操作はわからないが決断は社長の役目」という金重社長は、「なぜ、前に進むのですか?」という質問にこう答えた。 「社長に鞭打つ人はいない。鞭打つのは会社を大きく育てようという夢。夢が一つずつ実現していく喜びが前向きに勉強していこうという意欲になっています」
<ITコーディネータを活用してどうでしたか?> スムーズにIT 化へ踏み切れたのは荒添先生に出会ったことが大きな力になっている。IT活用型経営革新モデル事業の補助金なども教えていただき、また無事採択を受けることもできた。自分の会社に必要なIT導入ができるITコーディネータを他の経営者の皆様にも薦めたいと思います」(金重社長談) |