業務改革事例

IT導入の最適化
~ 自治体のシステム調達コストを1億円削減 ~



福山市プロフィール
福山市市長室情報政策課
小畠 泰造 課長

福山市市長室情報政策課
徳永 典子 次長
所在地人口 407,456人
予算規模 2,874億円
市職員数 :4,015人(2003年4月現在)
URL  
2003年に沼隈郡内海町、芦品郡新市町と合併。


ベンダーの1社独占体制への疑問

 行政のIT化においても、企業と同様コストを意識した最適なシステム導入が必要――。広島県の東部に位置する福山市は、市民の期待に答えるべく、ムダのない情報化に取組む先駆的な自治体の一つである。
 1992年からメインフレームを中心とした電算処理システムを構築してきた福山市は、職員を5年以内のサイクルで人事異動させていることもあり、専門のシステムエンジニアを配置しにくい状況にあった。
 一方、ベンダーは1社独占体制であるため競争原理が働きにくく、議会から「システム改造やメンテナンスにかかる費用がベンダーの言いなりではないか」という指摘も出ていた。
そこで、「民間に学べ」と白羽の矢を立てたのがITコーディネータだったのである。
 「今や、自治体もコストを下げつつ同レベルの市民サービスを維持することが求められる時代。それにはITを使うしかない。行政にITの専門家はいないから、専門知識を有する民間の方にアドバイスをいただくのが得策と判断した」――福山市市長室の小畠泰造情報政策課長はITコーディネータ採用の経緯をこのように説明する。
 2000年、まずは民間SIの管理職OBを嘱託職員として採用し、2001年からは、同市出身で独立系のITコーディネータとして活躍する中山章氏がコンサルティングを行うこととなった。

情報化資源調達にITCが威力を発揮

 中山氏が担当する主な業務は、各部課の業務システム導入/更新における提案依頼書(RFP)の作成や業者提案総合評価の支援、また、メインフレームのメンテナンス・改良に際しての見積り評価など。今すぐ対応が必要な局面ばかりだ。
 システムエンジニアの経験が豊富な中山氏は、ベンダーから提出された見積りをプログラムの内容に踏み込んで検討。「行政では企業の場合以上に客観性や透明性が求められる」と、緻密な仕事を続けた。この結果、2003年の市町村合併時には、当初予定されていたシステム統合コストを約1億円も削減。見事に市の要求に応えた。
 この他にも、同課次長の徳永典子氏が「日々のシステム運用管理部分もご指導いただいており、頼りにしています」と話すとおり、今や市の情報化においてなくてはならない存在となっている。
 約10年間におよぶ福山市の歩みを整理すると下記のようになる。
・1992年度
メインフレームを中心としたレガシーシステムでバックオフィスの電算処理を行う。
ベンダー一社に任せる問題や自治体にSEの専門家がいない問題が...
・2000年度
民間SI出身の管理者を非常勤嘱託職員として採用
・2001年度
中山章氏を非常勤嘱託職員として採用。週1日、支援を受ける
・2002年度
市町村合併に伴い業務が増大。契約を業務委託に変更し、週2日程度、合併に関わる見積評価、プロジェクト管理を主体に支援を受ける
・2003年度
業務委託を継続、現在に至る

 この福山市の成功は、中国経済産業局が市とITコーディネータの交流会を実施するなど、他の自治体の導入を促す波及効果も生んだ。
 現在、中山氏の立場は嘱託から業務委託に切り替わっているが、小畠課長は「市の職員として我々の指南役になってもらいたいほど」と信頼を寄せている。 福山市では、今後ITコーディネータの増員も考えており、さらなる協働体制による低コストな行政サービスを目指していくとのことである。

コラム 中国経済産業局が市町とITCの交流会を開催

中国経済産業局産業部情報政策課は2003年8月、中国地域ITコーディネータ連絡会(ITC中国)との共催で、自治体・ITコーディネータ交流会を実施した。
 これは福山市の成功を他の自治体にも紹介し、ITコーディネータ(ITC)活用を希望する自治体とITCとの出会いの場を提供しようというものだ。
 産業部情報政策課の岡崎修一係長は、まず自治体ニーズ調査を実施。「回答があった自治体のうち、約50%が交流会に興味を示した」のを受けて、交流会の実現に踏み切ったそうだ。
 当日は中国地域15市町(鳥取市、倉敷市、岡山県久世町、山口市、福山市、三原市、新見市、府中市、竹原市、三次市、庄原市、東広島市、呉市、広島県江田島町、広島県海田町)の18名の担当者と、ITC中国(代表幹事、鳥取県幹事、岡山県幹事、広島県幹事、山口県幹事、および、各県ITC)の19名が参加。福山市と同じくITCを活用中の三原市の事例も紹介された。
 交流会は「ITCへの報酬はいくらか」といった実際的な部分にまで話がおよび、すでに3市ほどでITCの導入が検討されているという。
 末崎豊情報政策課長は「地域に密着したITCの活動を頼もしく思う。ただ、市町村は全国で3000あまりしかない。ITCには地方自治体での実績をベースに、最終的には地域の中小企業の活性化を支援してほしい」と、ITCへの期待を語っている。


ITコーディネータ紹介

 システムエンジニアの豊富な経験を元に、独立系のITコーディネータとして活躍。2001年から福山市の情報化を支援し、現在は業務委託契約を結んでいる。同市では、特に情報化資源調達部分を担当。民間企業以上に透明性が要求されるなか、責任感あふれる仕事振りで情報化コスト削減やシステム運用改善に大きく貢献し市民の期待に応えている。
 「福山市にはITコーディネータへのご理解、またITCプロセスの実践の場を提供していただき感謝している」とその姿勢は謙虚だ。

中山 章 氏


<ITコーディネータを活用してどうでしたか?>

 提案されたシステムが適正価格なのかどうか、工数も含めてチェックするのは大変なこと。専門家がいない自治体内で対応するには限界がありました。情報化資源調達に市場原理をとり入れコスト削減する過程において、ITCによる詳細な調査や見積り評価は大きな力となりました。責任感をもって緻密な仕事をしていただいていることに感謝しています。1億円のコスト削減ができ市民の期待にもこたえられたと思います。
(福山市小畠泰造課長 談)



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